┌実─胸脇苦満・上腹部痛・腹直筋緊張・胃部不快・腹部膨満感・抑うつ─四逆散
│ ┌胸脇苦満・往来寒熱・口渇・尿量減少・浮腫・水瀉性下痢・腹痛─柴苓湯
┌熱┤ ├胸脇苦満・上腹部痛・悪心・腹直筋緊張・ストレス・発汗傾向—柴胡桂枝湯
│ └虚┼胸脇苦満・イライラ・易怒・神経過敏・冷えのぼせ・多愁訴—加味逍遙散
│ ├みぞおちの痛み・嘔気・腸鳴・急性下痢・しぶり腹・肛門灼熱感─半夏瀉心湯
│ └暴飲暴食・げっぷ・腹部膨満感・胃部痞え感・嘔気・下痢・浮腫─胃苓湯
│ ┌実─胃腸虚弱・腹痛・しぶり腹・便秘・腹部膨満感・腹直筋緊張─桂枝加芍薬大黄湯
│ │ ┌胃腸虚弱・腹痛・便通異常・下痢・腹部膨満感・腹直筋緊張—桂枝加芍薬湯
└寒┤ ├胃腸虚弱・腹痛・易疲労・倦怠感・腹部膨満感・食欲不振・神経性—小建中湯
│ ├胃腸虚弱・腹痛・腹部膨満感・腸蠕動運動異常・冷え・食欲不振—大建中湯
└虚┼胃腸虚弱・下痢・冷え・胃もたれ・嘔気・みぞおちの痛み・食欲不振—人参湯
├胃腸虚弱・食欲不振・易疲労・軟便・上腹部痞え感・顔色萎黄・嘔気—六君子湯
├全身虚弱・下痢・尿量減少・寒がり・冷え・浮腫・四肢の重だるさ—真武湯
└腹部平滑筋の急な痙攣・疼痛・四肢の筋肉痙攣・こむらがえり—芍薬甘草湯
過敏性腸症候群は、検査で特に異常がないのに、腹痛や腹部膨満感を伴う下痢や便秘が繰り返し起こる病気である。ストレスの関与が大きい機能性の異常であり、漢方治療が適している疾患である。
ストレスがメインのものと、元々の胃腸虚弱によるものの大きく二つに分けられる。
特にストレスの関与が強いものには柴胡剤が用いられる。
まず熱証について、胸脇苦満が軽度にあって、痛みもある場合には柴胡桂枝湯(表証あり)、四逆散(腹直筋緊張、四肢冷)、柴苓湯(水瀉性下痢)がよい。神経過敏で多愁訴のものには加味逍遙散を用いる。
その他、熱証で、胸脇苦満がなく、心下部が痞えて重苦しいという場合は、半夏瀉心湯がよい。腸鳴や胃内停水が著しいものには、平胃散と五苓散の合方である胃苓湯を用いる。
次に寒証であるが、first choiceは桂枝加芍薬湯で、腹直筋緊張のある寒虚証の腹満腹痛によく用いられる。便秘にも下痢にも使えるが、便秘が主なタイプには大黄を加えた桂枝加芍薬大黄湯がよい。桂枝加芍薬湯に膠飴を加えた小建中湯は、より虚弱なものに用いる。胃腸虚弱な上に冷え症があり、時に蠕動不穏が見られるものには大建中湯がよい。
食欲不振や胃もたれを伴い、冷えると悪化する不消化便のあるものには人参湯がよい。人参湯より湿証で、振水音や腸鳴が著しいものには六君子湯がよい。冷えと全身倦怠感が著しく、水様下痢のものには真武湯を用いる。
なお、急に腹が引きつったり痛んだりするときは、寒熱を問わず芍薬甘草湯の頓用が有効である。